最期“を託す生前契約書

投稿日:2023.06.08

まず肝心なのが、ここで紹介する「尊厳死の宣言書」と「エンディングノート」には、法的効力は一切ないということです。近年では「終活」という言葉が広く知られ、年を重ねた時に長かった人生をどう締めくくるかを意識する人が増えました。 大切な人たちへ、亡くなる前にきちんと感謝を伝えたい。亡くなった後に困ることのないよう準備をしておきたい。そのための手段となるのが「尊厳死の宣言書」や「エンディングノート」なのです。

もくじ
残された家族を悩ませない「尊厳死宣言書」
「エンディングノート」は「メッセージノート」
“終活”で整理しておくべきこと

残された家族を悩ませない「尊厳死宣言書」

もしも、この先不治の病気にかかり、人工呼吸器をはじめとする医療機器で延命治療だけが続けられることになったら…。

「尊厳死」とは、回復の見込みがない患者に対し、生命を維持するだけの治療を止め、人としての尊厳を保ちながら、死を迎えさせる手段です。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         現在、日本では法的に「尊厳死」が認められていないため、医療現場では患者の生命がある限り、それを維持すべく治療が続けられることがほとんどです。しかも、医療技術の発達により、その延命治療の時期が長引く傾向にあります。

しかし、それが患者にとって本意であるとは限りません。また、いろいろな機器につながれながら戦い続ける姿を目の当たりにし、「もうゆっくり休ませてあげたい」と願う家族は少なくないでしょう。現実的に、医療費の負担も重くのしかかります。

とはいえ、家族が医師に「もう治療をやめてほしい」と訴えても、治療の中止は法律に触れる可能性があるため、病院は治療を続けざるをえないのが実情です。

また、家族にとっても、治療の中止を訴えることは、家族の最期を決定づけてしまうことにもなり、その決断もまた辛いことでしょう。

そんな家族の負担を和らげるために有効なのが「尊厳死宣言書」です。この宣言書には、自分の傷病が二度と治らない場合は、死期を延ばすための延命措置は拒否すること。植物状態に陥った場合は、一切の生命維持装置の使用を取りやめてほしいこと。また、それ以外の治療に対する要望なども記載することができます。

法的効力はないものの、公証役場で作成することができ、正式な書類として家族に託しておくことで家族を迷わせず、また担当医師に患者本人の意思を伝えることができます。

前述のとおり、法的効力はないので希望通りの処置がなされる約束はされませんが、医療関係者のほとんどがこれを受け入れている実態があります。

今後、医療技術がさらに進化するにつれ、この宣言書の必要性はいっそう高まるでしょう。

「エンディングノート」は「メッセージノート」

同名映画のヒットなどにより、一気に世の中に浸透した「エンディングノート」。年を重ねて人生の最期を意識し、「終活」を始めるにあたり、自分自身で整理したいことや周囲に伝えておきたいさまざまな情報、そして自分の想いなどをまとめるためのツールです。

当初は普通のノートが使われていましたが、今では文具店で専用ノートが売られていたり、書き方などについての関連書籍も多く出版されています。
また、WEB上でフォーマットをダウンロードできるものもあります。

「エンディングノート」は書式は自由ですが、書いておくとよいとされるいくつかの項目があります。

1.基本情報
大事な個人情報についてまとめておきましょう。

<具体例>
生年月日/本籍地/血液型/家族/家系図/経歴/マイナンバー/運転免許証番号・健康保険証番号

また、自分の内面についてもじっくり向き合って記録しましょう。

<具体例>
自分史/性格/信念/趣味・特技/人脈/好物

2.財産・資産について
通帳、印鑑、その他貴重品、また年金証書や保険の証書、介護保険証や健康保険証など大切な物の保管場所は、家族であっても知らないケースがほとんどです。いざという時にスムーズに対応してもらえるよう情報を共有しておきましょう。
また、財産・資産の整理は、自身の老後の計画にも役立ちます。

<具体例>
預貯金/金庫などに保管している現金/不動産/有価証券/貴金属/価値のあるコレクション

3.ID・パスワード類
サブスクリプションサービスなどの契約を解除したり、WEB上に保存している情報を削除するためにも、さまざまなサービスのログイン情報などはエンディングノートで共有しておきましょう。

4.家族・親族について
家族や親族との思い出や感謝の気持ちなどを残しておきましょう。手元にあるものを思い出に贈りたい場合など、形見分けリストとしてまとめておくと喜ばれそうです。

5.友人・知人について
お世話になった友人・知人へも、ぜひメッセージを残しましょう。また、お通夜や葬儀の時のために、友人・知人リストを作っておくと、残された人にとって便利です。連絡先はもちろん、どんなコミュニティで一緒になったかなど関係性がわかる情報があるといいでしょう。

6.ペットについて
一人暮らしの場合などは、残されたペットを引き継いでくれる人を見つけておきましょう。またペットの性格や好き嫌い、病歴なども詳細に記入しておくことも忘れずに。

7.医療・介護について
延命措置についての意向や、認知症になった場合のために、介護についての希望や費用の捻出方法、また、持病やアレルギー、服用している薬などの情報もまとめておきましょう。

8.葬儀・お墓について
自分がどのような葬儀を望んでいるか、お墓の用意、または要望について、宗教についても伝えておきましょう。

<具体例>
信仰宗教/葬儀の方法/納骨の方法・場所/お墓について/遺影に使ってほしい写真

ここまででおわかりの通り、エンディングノートとは、大切な人々へのメッセージノートであり、また自分と向き合うための鏡のようなものです。

法的な効力はないので、遺言書のように、ここに書いた要望が全て叶えられるわけではありません。あくまで残る人たちに“託す”気持ちでしたためましょう。

“終活”で整理しておくべきこと

「断捨離」という言葉が流行しましたが、まずは自分の持ち物を少しずつ整理していきましょう。多くの物を残してしまうと、それを引き継ぐ家族や関係者が処分に大変な労力と費用をかけることになってしまいます。また、故人が残した物は、残された人にとってなかなか思い切った処分がしにくいものです。
周りの人を困らせないために、少しずつ物を減らし、身軽になる準備を進めましょう。

また、終活について最近よく話題になるのが「デジタル終活」です。
今は高齢の方でもスマホやタブレット、PCなどを使いこなす人が増えています。
自分が亡くなった後に見られたくないものは先に処分をしておくこと。

また、デジタル関連の登録・加入サービスも、不要なものはどんどん解約しておくようにしましょう。
そして最後は、亡くなるまでにやっておきたいことリストの整理です。

終活は、終えていく、捨てていくことばかりではありません。悔いを残さないため、やりたいことと優先順位を整理し、残りの人生を楽しむ準備も進めましょう。

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