認知症を“正しく”知ることから始めよう

投稿日:2023.06.08

高齢のご家族がよく物をなくすようになったり、物忘れすることが増えると、「もしかして認知症?」と不安になる人は少なくないでしょう。ですが、そのなかで認知症を正しく理解できている人はどれくらいいるでしょうか。記憶力の低下が必ずしも認知症の症状であるとは限りません。また、ひとくちに「認知症」といっても、症状やケア方法はさまざま。焦らず、まずは認知症の基本知識を正しく知ることから始めましょう。

もくじ
「認知症」って何?
物忘れ=認知症 とは限らない
記憶障害以外にもある認知症のサイン
認知症になると避けられない「中核症状」
気持ちや行動に影響が出る「周辺症状(BPSD)」

「認知症」って何?

「認知症」とは、“脳がダメージを受けることで起こる認知障害”を指します。記憶や思考、言語、判断といった認知機能が低下するため、生活にさまざまな支障が生じます。

認知症というと、メディアなどで名前を聞くことが多い「アルツハイマー型認知症(ATD)」を思い浮かべる人も多いでしょう。実際に、認知症全体の約7割を占める最も多い認知症状です。
アルツハイマー型認知症は、「レビー小体型認知症(DLB)」「脳血管性認知症(VaD)」「前頭側頭葉変性症(FTLD)」とあわせて「四大認知症」と呼ばれ、それぞれ発症の原因、症状、ケア方法などが異なります。

四大認知症は残念ながら治すことはできませんが、栄養障害や脳の圧迫に起因する認知症状であれば、ケアにより治癒できる可能性もあります。
このように、認知症といってもさまざまな種類があるため、まずは認知症について、正しく知ることから始めましょう。

物忘れ=認知症 とは限らない

脳の機能は老化とともに徐々に衰えます。そのため、人や物の名前が出づらくなったり、大事な物をどこにしまったか忘れやすくなるのは、高齢者であればごく当然のことです。

では、認知症と老化の違いは何でしょうか。それは、記憶自体の有無です。“何かを思い出せない”ことと、“記憶をなくす”ことは違います。

記憶には、大きく3つの過程があります。
目や耳などから情報や物ごとを学び、覚える「記銘」。
それを脳内に保存する「保持」。
保存したものを必要に応じて引き出す「想起」。
この3つの過程を経て、私たちは脳内の莫大な情報を生活に役立てます。

加齢による物忘れは、第3段階の「想起」の能力が衰える症状をいいます。この場合、「保持」まではできるため、何かのきっかけで思い出すことができます。
しかし、認知症の場合は第1段階の「記銘」に支障が出ます。これは、そもそも“覚えていない”ことになるので、何があっても思い出すことはできず、そもそも、「忘れた」という自覚もありません。「物忘れが増えた」という自覚を持てているなら、認知症を疑う必要はないかもしれません。

記憶障害以外にもある認知症のサイン

認知症の症状は記憶障害だけにとどまりません。
認知症の症状は、大きく「中核症状」と「周辺症状」の2つに分けられます。具体的にどのような症状となって現れるかは認知症の種類により異なりますが、たとえば、穏やかだった人が暴力的な性格に変わったり、うつ症状が出たり、徘徊、暴言、不潔行動など、周囲の人々を困らせる行動となって現れる場合もあります。

認知症になると避けられない「中核症状」

脳がダメージを負うことで現れる症状を中核症状といい、認知症患者さんにはそのいずれかが必ず出ます。その代表的な症状が記憶障害で、アルツハイマー型認知症の代表的な中核症状といえます。

そのほか、時間、場所、人物などを認識できなくなる「見当識障害」。
ごく基本的な日常の動作ができなくなる「失行」。
読み書きや会話に支障がでる「失語」
視覚や聴覚などの感覚器では物を捉えられるのに、それが何であるかを認識できない「失認」。
何かが起きた時に、瞬時に物ごとを理解したり、判断することができない「判断力障害」。
前述したような「性格の変化」などが中核症状に含まれています。

気持ちや行動に影響が出る「周辺症状(BPSD)」

中核症状が原因となって引き起こされる症状を「周辺症状(BPSD)」といい、精神状態に影響を及ぼす「心理症状」と、異常行動として現れる「行動症状」の2つに大別されます。

心理症状の代表例には、意欲や自発性が低下する「アパシー」という症状や、悲観的になったり、絶望感に苛まれてひどく落ち込む「うつ症状」が挙げられます。たとえば、中核症状である「記憶障害」により、記憶が曖昧になることで、周辺症状である「妄想」が引き起こされてしまうことが多く、「大切な物が誰かに盗まれた」といった妄想で大きな騒動に発展することが少なくありません。

また、行動症状では、「徘徊・多動」「暴言・暴力」などが代表的な例で、中核症状である見当識障害によって徘徊行動に出てしまい、行方がわからなくなったり、性格の変化により暴言を吐く、暴力を振るうなど、周囲の人々に大きなストレスを与えてしまうことがあります。

周辺症状は中核症状と異なり、必ず発症するものではありませんが、発症した場合に社会生活に大きな支障をきたすことが多いので、注意が必要です。

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