脳血管性認知症(VaD)の薬物治療

投稿日:2023.06.08

脳血管性認知症の治療で何よりも優先されるのは、脳梗塞の改善です。脳梗塞によって起こってしまった神経細胞の壊死は薬物治療で治すことはできないため、身体症状などの改善に注力することになります。コウノメソッドによる治療と、一般の薬物治療について見ていきましょう。

もくじ
一般的な薬物治療の場合
コウノメソッドの場合

一般的な薬物治療の場合

脳血管障害でもっとも認知症を引き起こす恐れがあるのが、脳梗塞です。できるだけ早く血流を回復する必要があり、脳の壊死を食い止めることが重要なのです。発症後、3時間以内であれば、血栓溶解薬のrt-PA(アルテプラーゼ)を静脈から注入し、血栓を溶かします。血栓の再発を防ぐ抗血小板薬、脳内の酸化を防ぐ脳保護薬などを用いることが多いです。

脳血管性認知症の主な要因はビンスワンガー病、ラクナ梗塞のため、気がつかないうちに小さな病変が増えることが多いのです。そうなってしまうと、時間が経過してしまっているため、治療より再発防止に注力することとなります。

<脳梗塞に対する一般的治療>

■超急性期の薬物治療(発症4~6時間以内)

1.血栓溶解療法

血栓溶解剤rt-PA(アルテプラーゼ)静注によって閉塞した血管を再開通させます。

2.抗血小板療法

 選択的抗トロンビン薬、抗血小板薬を順に注入。血栓ができることを阻害します。

3.脳保護療法

 神経細胞を保護するエダラボンを投与します。

■急性期の治療(発症6時間~2週間)

必要に応じて、超急性期と同様の治療を継続します。合併症対策や感染症予防も合わせて行います。

■慢性期の治療(発症2週間後以降)

・抗血小板薬:アスピリン、シロスタゾールなど

・脳循環・代謝改善薬:ニセルゴリン

これらにプラスして、降圧薬、糖尿病治療薬などを取り入れます。抗血小板薬で再発を防ぎ、脳循環・代謝改善薬で脳の働きを良くします。

脳血管性認知症対して有効性が示されている認知機能改善薬は、脳の虚血性病変で障害されたアセチルコリン神経系が賦活化されると考えられています。高齢者によく見られる脳血管病変とアルツハイマー型病変の合併が多く、アルツハイマー型病変に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬が効果を発揮する可能性も除外はできません。脳血管性病変への有効性は、検証段階にあるといえます。

ほかにも、脳循環・代謝改善薬のニセルゴリンは認知機能を改善する効果が認められていて、脳梗塞の後遺症にともなった意欲低下の改善に対しては保険適用にもなっています。リバスチグミンや漢方薬、非定型抗精神病薬は、周辺症状にも有効といわれています。注意すべき点は、非定型抗精神病薬は脳卒中の合併率を高めることです。

<ガイドラインにおける、脳血管性認知症の推奨薬>

■認知機能改善薬

・ドネペジル(認知機能改善薬)

 推奨グレード B/エビデンスレベル Ⅱ

・リバスチグミン(認知機能改善薬)

 推奨グレード C1/エビデンスレベル ―

・ガランタミン(認知機能改善薬)

 推奨グレード B/エビデンスレベル Ⅱ

・メマンチン(認知機能改善薬)

 推奨グレード B/エビデンスレベル Ⅰ、Ⅱ

・ニモルジピン(降圧薬、Ca拮抗薬)(※1)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル ―

・イチョウ葉エキス(サプリメント)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル ―

■うつ症状

・リバスチグミン(認知機能改善薬)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル 2b

・メマンチン(認知機能改善薬)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル Ⅰb

■攻撃性/焦燥性興奮

・リスペリドン(非定型抗精神病薬)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル Ⅱ

・カルバマゼピン(抗てんかん薬)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル Ⅱ

■行動異常

・リバスチグミン(認知機能改善薬)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル 2b

・バルプロ酸(抗てんかん薬)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル 4

■アパシー

・ニセルゴリン(脳循環・代謝改善薬)

 推奨グレード B/エビデンスレベル ―

・アマンタジン(精神活動改善薬)

 推奨グレード C1/エビデンスレベル Ⅱ

■全般性精神症状(アパシー、うつ症状、行動異常など)

・釣藤散(ちょうとうさん/漢方薬)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル Ⅱ

■全般性行動・心理症状

・抑肝散(よくかんさん/漢方薬)

 推奨グレード ―/エビデンスレベル ―

(『認知症疾患治療ガイドライン2010』日本神経学会監修、「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会編、2010より作成

※1降圧薬の認知症予防効果として、ニモルジピンがあります。

コウノメソッドの場合

コウノメソッドでは、脳血管性認知症を2つのタイプに分け、薬物治療を行います。

「脳血管性認知症(VaD)では、元気がなく、抑うつ傾向を示すことが多い。このようなケースはシンプルタイプとし、脳循環・代謝改善薬のニセルゴリンが第一選択薬となる。一方、易怒や暴力など、陽性症状の強いポジティブタイプは、チアプリドで陽性症状を抑えるのが基本となる。どちらのタイプも、再発を防ぐために、抗血小板薬を併用する。歩行障害には、グルタチオンの大量点滴が有効だ。即効性があり、注射後15分ほどで効果が現れる」。

上記について、持続期間は個人によって差があるとされています。

 

脳血管性認知症では、高齢になるとアルツハイマー型病変をともなうケースが多くなるなど、その場合、3つのケースが考えられ、鑑別は難しいとされています。

・脳血管性認知症

・脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症

・混合型認知症

コウノメソッドによると、「診断に迷ったときは、症状に合わせて処方すればよいという。これは認知症診療全般に通じる、コウノメソッドの基本である。画像から導き出される疾患と、実際の症状がかけ離れている時は必ず、症状で診断し、症状改善を最優先に処方していく」と、唱えられています。

 

<脳血管性認知症の薬物治療の流れ>

脳血管性認知症の歩行障害で特徴的なのが、両足を開いて歩くワイドベースや前傾化している歩行障害、意識障害ですが、まずはこれらを治療することが大切です。この治療をしなければ、中核症状、周辺症状は改善されません。

症状による選択薬としては以下のものがあります。

歩行障害―グルタチオン
せん妄、傾眠などの意識障害―シチコリン

<即効治療>

■歩行障害

点滴
・グルタチオン 0~3600mg

■せん妄、傾眠などの意識障害

点滴
・シチコリン 0~2000mg

注射
・シチコリン 1000~1500mg

その後、中核症状、周辺症状の改善に、以下の薬剤を使用していきます。

シンプルタイプで、ニセルゴリンだけで不十分であればアマンタジンを追加します。アルツハイマー型との合併も考慮し、ガランタミンの使用もよいとされています。

ポジティブタイプでは、チアプリドを大量に投与しても効果が不十分であれば、クロルプロマジンを投与します。これが有効作用すれば、チアプリドは中止。糖尿疾患がなければ、クエチアピンの使用でもよいとされています。
(『せんぶわかる認知症の事典』河野和彦氏監修を参考)

 

(『せんぶわかる認知症の事典』河野和彦氏監修から引用)

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