アルツハイマー型認知症(ATD)の薬物治療①一般的な薬物治療の場合

投稿日:2023.06.08

アルツハイマー型認知症には、中核症状を抑える「ドネペジル(商品名:アリセプト)」、「リバスチグミン(商品名:リパスタッチ、イクセロン)」、「ガランタミン(商品名:レミニール)」、 「メマンチン(商品名:メマリー)」という4つの認知機能改善薬が使用できます。一般的には、これが薬物治療の中心になります。

もくじ
薬を使って認知機能の低下を遅らせる
アルツハイマー型認知症(ATD)の発症の仕組みと薬物療法の役割
認知機能改善薬の中核症状、周辺症状への効果
不安や興奮、妄想には新しいタイプの抗精神病薬が中心

薬を使って認知機能の低下を遅らせる

アルツハイマー型認知症(ATD)による認知機能の低下は、神経伝達物質の1つであるアセチルコリンの現象が原因であると考えられています。そのため、薬物治療はアセチルコリンを分解してしまう、アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害するコリンエステラーゼ阻害薬が中心となります。3種類ある薬のうち、「ドネペジル」は、軽度、中等度、高度のすべてに適応。「ガランタミン」と「リバスチグミン」は、軽度から中等度のアルツハイマー型に適応します。

コリンエステラーゼ阻害薬同士は併用できませんが、神経細胞を傷つけるグルタミン酸が過剰に流入するのを防ぐ神経保護薬「メマンチン」との併用はできるので、その効果が期待されています。

アルツハイマー型認知症(ATD)の発症の仕組みと薬物療法の役割

アルツハイマー型認知症の根本的な原因は、アミロイドβの蓄積と考えられていますが、これに対する有効な薬剤は残念ながらありません。アミロイドβが蓄積すると、神経細胞外に沈着し、老人班が形成されます。その後、細胞の形の保持や運動に関与する微小管を構成するタウタンパクがリン酸化し、神経細胞内に蓄積する神経原線維変化が起こると、神経細胞死へと進行。やがてアセチルコリンが減少し、記憶障害を発症します。

この神経細胞死を抑制するのが、神経保護薬のメマンチンです。グルタミン酸を受容するNMDA受容体(NMDA型グルタミン酸受容体)に結合し、神経細胞を傷つけるグルタミン酸の過剰刺激を抑えます。またコリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼの働きを抑えます。

認知機能改善薬の中核症状、周辺症状への効果

日本では長い間、ドネペジルが唯一の認知機能改善薬だったこともあり、認知症の診断にはドネペジルが短絡的に処方される傾向がありました。しかし、高齢の認知症患者には個人差が大きく、薬の種類も増えたことから、近年では、周辺症状や副作用に応じた使い分けが重視されつつあります。

ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3つのコリンエステラーゼ阻害薬は、認知機能改善効果に大きな差はないとされ、それぞれ周辺症状に対する作用が以下のように異なります。

・ドネペジル

脳を興奮させる作用が強く、無気力、無反応を改善する効果があります。その反面、焦燥や攻撃性が悪化することもあります。

・リバスチグミン

入浴や買い物など、日常生活における機能の低下、不具合を改善します。貼り薬なので、経口投与が難しい患者にも向いています。

・ガランタミン

不安、妄想、脱抑制(理性の低下)、攻撃性などの情緒不安定を改善します。

また、メマンチンは抑制系の薬剤なので、興奮を鎮める効果が期待できます。ただし、めまいやふらつき、傾眠といった副作用の報告もあり、転倒、ケガにつながるリスクがあるので、注意が必要です。

以下のグラフが示すように、認知機能改善薬は、服薬を早く始めるほど、認知機能の低下を遅らせることができます。周辺症状の改善にもつながり、介護者の負担が減り、医療経済のメリットも大きいと考えられます。

不安や興奮、妄想には新しいタイプの抗精神病薬が中心

以前は、不安や興奮などの周辺症状に定型抗精神病薬が用いられていましたが、現在は、セロトニン、ドパミン、アドレナリンなどの神経伝達物質を遮断し、副作用が少ない非定型抗精神病薬が中心となっています。ただし一方で、2005年に米国食品医薬品局(FDA)からは、高齢の認知症患者に非定型型抗精神病薬を投与すると、死亡率が高まったという警告がなされています。

非定型抗精神薬は、認知症の周辺症状治療に対する保険適用がないので、本人や家族への十分な説明は欠かせません。必要性と安全性を考慮したうえで、慎重な使用が求められます。

以下は、ガイドラインにおける推奨薬剤と推奨度です。青字の非定型抗精神病薬が中心となります。

推奨グレードは次のように示しています。 A:強い科学的根拠があり、強く勧められる、B:科学的根拠があり、勧められる、C1:科学的根拠がないが、勧められる

<心理症状・行動症状>

●不安

・リスペリドン(非定型抗精神病薬)・・・B

・オランザピン(非定型抗精神病薬)・・・B

・クエチアピン(非定型抗精神病薬)・・・C1

・クロナゼパム(抗てんかん薬)・・・なし

●焦燥性興奮

・リスペリドン(非定型抗精神病薬)・・・B

・クエチアピン(非定型抗精神病薬)・・・B

・オランザピン(非定型抗精神病薬)・・・B

・アリピプラゾール(非定型抗精神病薬)・・・B

・バルプロ酸(抗てんかん薬)・・・C1

・カルバマゼピン(抗てんかん薬)・・・C1

●幻覚、妄想

リスペリドン(非定型抗精神病薬)・・・B

オランザピン(非定型抗精神病薬)・・・B

アリピプラゾール(非定型抗精神病薬)・・・B

クエチアピン(非定型抗精神病薬)・・・C1

ハロペリドール(定型抗精神病薬)・・・C1

●うつ症状

・ミルナシプラン(抗うつ薬のSNRI)・・・C1

・SSRI、ミルタザピンなど(抗うつ薬)・・・C1

・ドネペジル(認知機能改善薬)・・・C1

●暴力・不穏

・リスペリドンなど(非定型抗精神病薬)・・・C1

<身体症状>

●睡眠障害

・ベンゾジアゼピン系睡眠薬・・・C1

・リスペリドン(非定型抗精神病薬)・・・C1

・ドネペジル(認知機能改善薬)・・・C1

・抑肝散(漢方薬)・・・C1

●嚥下障害

・ACE阻害薬(降圧薬)・・・C1

・アマンタジン(パーキンソン症候群治療薬)・・・C1

(『認知症疾患治療ガイドライン2010』日本神経学会監修、「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会編、2010より作成)

>次の記事を見る「アルツハイマー型認知症(ATD)の薬物治療➁コウノメソッドの場合」

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