菫ホームクリニック
小田行一郎院長インタビュー

投稿日:2024.04.01

銀行員だった父親の転勤に伴い、名古屋で生まれ東京で育った小田行一郎(おだ・こういちろう)先生は、1983年に東京医科歯科大学医学部を卒業し、同年同大第二外科学教室(現:腫瘍外科学教室)に入局した。その後、東京医科歯科大学助手、埼玉医科大学第二外科非常勤講師を経て、2007年千葉市で訪問診療クリニック“菫ホームクリニック”を開業。2012年に千葉駅から徒歩10分の現在地へ移転した。
日本外科学会認定登録医、日本消化器病学会専門医、日本医師会認定産業医、認知症サポート医(千葉市)、コウノメソッド実践医。日本糖質制限医療推進協会関連施設。(取材日2023年12月23日)

もくじ
千葉市の中心部で訪問診療を行う認知症サポート医
在宅療養支援診療所として高齢者医療に貢献
外来では糖質制限を取り入れて治療効果を高める

千葉市の中心部で訪問診療を行う認知症サポート医

Q.医師を志した動機をお聞かせください。

私の父は北海道出身で、伯父は北海道大学医学部に入っています。父も医師を希望しておりましたが、経済的な理由で自身は小樽商科大学に入学し、銀行員になりました。高校の理系、文系の進路希望を決めるときにやはり、父の希望もあり医師になりたいという気持ちが強くなり、医学部進学を目指しました。

その父は、私が高校生の時に白血病になり、最終的には私の東京医科歯科大学への入学を見届けた後、1年生の時の11月に亡くなりました。今なら、多分治るタイプの白血病だったので大変残念でした。

Q.外科から認知症の治療に転身なさったのはなぜですか?

医学部に入る段階では、専攻をどの診療科目にするかを決めていませんでした。4年生から実習でいろいろな科を回り、性格的に緻密な内科は向いていないと思ったので外科にしました。当時、外科のメインだった消化器外科を選択しました。東京医科歯科大学の第二外科に入局して、最初の2年間は初期研修で1年ずつ関連病院に配属されました。次の2年間は中期研修で、関連病院で研修させていただきました。胃がんを始め消化器の手術に明け暮れる毎日でした。東京医科歯科大学の助手に就任しました。

その後、大学の関連病院に勤務していた私に、転機が訪れたのは2003年でした。関連病院の院長から「新しく訪問診療のクリニックを創設するから、担当医になるように」と白羽の矢が立ったのです。ずっと外科でやってきたので、「なぜ訪問診療に転身しなければならないのか」という葛藤はありましたが、これも一つの人生だと決断して、対象が消化器外科医療から高齢者医療(認知症診療を含む)へ、私の人生は大きく転換することになりました。

Q.開業に到った経緯をお聞かせください。

関連病院院長から依頼された訪問クリニックを立ち上げて、軌道に乗せたところで一旦退職しました。その後、友人が葛飾区で開いていたクリニックを1年間手伝いました。その頃、都内で6つの訪問診療クリニックを経営していた、医科歯科大学の10年先輩のかたから“人手が足りないから手伝ってほしい”と頼まれました。そのグループが千葉県に進出することになり、千葉みなとに開業したクリニックの院長になりました。2007年9月からクリニックが入居している建物の契約の切れる2012年7月までそこで働き、自分のクリニックを立ち上げました。

千葉駅から徒歩10分の現在の場所に開業したのは、2012年8月のことでした。訪問患者の割合としては、有料老人ホームやグループホームなどの高齢者施設が7割、個人宅が3割です。患者さんはほぼ高齢者で、多かれ少なかれ認知症を抱えています。大学では認知症など教えていませんから、独学で学ぶしかありません。いろいろ調べているうちに、出会ったのがコウノメソッドでした。名古屋の河野和彦先生が提唱する、認知症の治療法です。ネット検索で「河野和彦認知症ブログ」を見つけ、「こんなことをやっている先生がいるんだ」と驚きながら真剣に学びました。今でも認知症の治療は、コウノメソッド中心に行っています。

在宅療養支援診療所として高齢者医療に貢献

Q.このクリニックの特徴を教えてください。

まずは、訪問診療に力を入れている点が挙げられます。外来は曜日を制限して、完全予約制で行っています。訪問は一人の患者さんに対して原則月2回のスケジュールを組み、看護師、看護助手と施設や個人宅を回ります。在宅療養支援診療所(連携型・機能強化型・病床あり)として登録して、地域の医療機関と提携させていただいています。24時間電話対応を行い、緊急の24時間の往診要請にも対応しています。

当クリニックのもう一つの柱は、コウノメソッド実践医として認知症の治療にあたっていることです。コウノメソッドは当初、薬剤調整を中心とした薬物療法でした。ところが創始者の河野先生が2018年から糖質制限を始められ、実践医は認知症の患者さんやご家族に対して糖質制限の指導をすることが方針に加わりました。戸惑った実践医もいらっしゃるかと思いますが、これは私にとっては幸運なことでした。私自身、江部康二先生が理事長を務める「一般社団法人 日本糖質制限医療推進協会」に入会し、関連施設として糖尿病の治療や糖質制限の啓発を行っているからです。現在は、それに加えて分子栄養学的アプローチも必要と考えて、宮澤先生の主催する臨床分子栄養医学研究会に所属して研鑽を積んでおります。

Q.認知症の治療で工夫していることは何ですか?

基本はコウノメソッドですから、薬はその患者さんに合わせた適量投与を心がけています。有料老人ホームやグループホームには、一人暮らしができなくなったかたや、認知症の周辺症状がひどくて家族と一緒に暮らせなくなった人が入るわけですが、薬の調節(主に減薬)をしただけで「ここに入らなくてもよかったんじゃないか」というレベルまで良くなる人がいます。以前、アリセプト10㎎とメマリー20㎎を処方され、一日中落ち着かない高齢者がいました。アリセプトを止めてメマリーを10㎎にしたら、次にご家族が面会に来られたときに、昔の穏やかな状態に戻っていたのです。「何をしたのですか」と聞かれたので、「薬を減らしたり、やめただけですよ」と答えたことがあります。

とにかく、高齢者にはその方に応じた用量調整が必要です。抗認知症薬は4種類ありますが、例えばリバスチグミンのパッチ製剤を使うときは、一番少ない4.5㎎でも多過ぎる方がいらっしゃいます。私はパッチ製剤を切って、4分の1から始めることもしばしばあります。大病院の外来にしても、認知症専門のクリニックにしても、医師が在宅での患者さんの生活を見ることができません。1ヵ月分の薬を処方して、次も診察室で会うだけですから、細かな変化に気づけないのです。私は訪問診療で2週間に1回、生活している場所で会いますから、前に処方した薬が与えた影響を正確に評価できるのが強みです。

Q.サプリメントはどのように使っていらっしゃいますか?

フェルガードとMガードを使っています。私のクリニックに来る患者さんのご家族は、コウノメソッドの実践医であることを調べて来られる方が多いです。「サプリは何がいいですか」と向こうから聞かれるので、元気がなければフェルガードLA、標準だとフェルガード100M、怒りっぽければフェルガードFを飲んでもらいます。作用機序が異なるためできれば、Mガードとの併用が望ましいと考えています。金銭的に両方は無理だという人には、Mガードを勧めます。あるいは、朝夕で、フェルガードとMガードを飲み分けてもらいます。こうすると、費用が半分で抑えられますから。

最近、認知症でグリア細胞が注目されています。Mガードを推奨する理由は、神経細胞を支える、グリア細胞に対する、栄養補給、酸化防止、再生作用が考えられるからです。結果として、神経細胞に対して好影響を与える可能性が高いと思います。高齢者にも、できる範囲で栄養療法を勧めています。認知症は薬剤療法のみでなく、人体にとって重要な栄養もしっかりケアすることが大切だと考えています。改善例は、症例によりますが実際に記憶自体が良くなる方もいらっしゃいますし、ご家族から「記憶がすごく良くなったわけではないけれど、話し方や表情が良くなりました」と言われることもあります。これは、実際の家族でなければわかりません。それだけ、家族の観察眼は頼りになります。

外来では糖質制限を取り入れて治療効果を高める

Q.外来ではどのような患者さんを診ていらっしゃいますか?

完全予約制なので、電話もしくはFAXにて受診日のご相談をいただきます。ご本人、ご家族、ケアマネジャー、医療関係者、施設関係者など、どなたでも結構です。コウノメソッド実践医として、私の持ち合わせる全ての知識を動員して認知症の改善を目指します。訪問診療の対象となるのは、お一人での通院が困難な方、事故や病気の後遺症で麻痺がある方、認知症などにより見守りが必要な方、退院後の在宅療養が不安な方などです。

そのほか点滴療法、褥瘡(床ずれ)の処置、経管・中心静脈栄養法、胃瘻の管理、酸素療法や人工呼吸器の管理、糖尿病のインスリン管理なども行います。検査に関しては、血液検査、尿検査、心電図検査、超音波検査などが、自宅や施設内で受けられます。それ以外の大がかりな検査は、ご希望の病院または提携病院を紹介しています。パーキンソン病をはじめとするさまざまな神経難病の方の相談にも乗っています。

Q.糖質制限に力を入れていらっしゃるのはなぜですか?

私自身が糖質制限を行って減量でき、体調が良くなったからです。きっかけは、江部康二先生のブログ、「ドクター江部の糖尿病徒然日記」を読んだことでした。開業してからは提携医療機関として、糖尿病の治療、糖質制限の啓発に力を入れています。しかし、残念ながら当院を受診なさる糖尿病の患者さんはそれほど多くありません。従って提携医療機関としてはあまりお役に立てていないのですが、外来に来ていただいた方には、クリニックで作成したパンフレットなどをお渡しして啓発に努めています。2023年2月にクリエーターの高城剛さんが出された『40代からの認知症予防』は、高城さんが6人の専門家に取材して書かれた本です。その冒頭に私が登場し、「『食』から考える認知症治療」という題で糖質制限の話をさせていただきました。糖質制限は、認知症のリスク回避になるのです。

Q.そのほか、治療に役立てていることがあれば教えてください。

人間の体は、食べたもの(吸収できたもの)でできていると考えています。その点に興味を持ち、保険診療内でもできる限りの分子栄養的なアプローチを心がけて、臨床に活かしたいと考えております。

高齢者の訪問診療を行うと、褥瘡(床ずれ)に出会うケースが珍しくありません。転倒による剥離創、挫創もよく見られます。これらは、従来のメロリン+イソジンシュガーではなく、なつい式湿潤療法できれいに治すことができます。結果として私は、認知症における抗認知症薬・抗精神病薬に頼る常識、糖尿病治療におけるインスリン注射に頼る常識、創傷治療における消毒・ガーゼに頼る常識などとは、全て反対のことをやってしまっているのかもしれませんが、それは正しいことと信じて続けていきたいと考えております。そのほか、漢方医学も井齊先生主宰の学会に入会して、臨床に取り入れております。2022年からは漢方内科も標榜しています。これらの治療に関心がある方は、ぜひ当クリニックにご連絡いただきたいと思います。

菫ホームクリニック

・菫ホームクリニック ホームページへリンク
〒260-0021 千葉県千葉市中央区新宿2-16-20-401
電話 043-204-5755 FAX 043-204-5733

あわせて読みたい
帯津三敬病院
増田俊和院長インタビュー
かがやきクリニック川口
腰原公人院長インタビュー
べっく・メディカル・クリニック
佐藤裕道医師インタビュー
汐入ぱくクリニック
新井正晃院長インタビュー
ばんどうクリニック
板東邦秋院長インタビュー
かなや内科クリニック
金谷潔史院長インタビュー
東京メモリークリニック蒲田
園田康博院長インタビュー
みなさまの声を募集しています。

えんがわでは、認知症のご家庭の皆さまと、
認知症に向き合う高い志をもった
医療関係者と介護関係者をつなぎます。
認知症に関するお悩み、みんなで考えていきたいこと、
どんどんご意見をお聴かせ下さい。