中核症状を知る 実行機能障害について

投稿日:2023.06.08

前頭葉の機能が低下すると、計画を立てて物事を遂行する能力が失われ、日常生活や社会生活に支障が生じます。このような症状を「実行機能障害」といいます。ここでは実行機能障害が起こる仕組みやその症状について紹介します。

もくじ
実行機能障害が起こるメカニズム
生活能力を評価する「IADL尺度」
前頭葉・前頭連合野の障害で起こるその他の症状

実行機能障害が起こるメカニズム

人は誰しも日常生活において、無意識のうちに行動計画を立て、実行しています。このときに必要となる、計画、推理・推論、判断、意思決定などの脳の働きを、実行機能といいます。

脳内での実行機能のプロセスを表したのが上図です。人は行動するとき、無意識に1〜4の段階を踏んで実行しており、行動の評価は、次の計画にフィードバックされます。

このプロセスに深くかかわっているのが、前頭葉にある前頭連合野です。前頭連合野は、意思決定に必要な記憶や学習、判断、推理などの複雑な情報を処理しており、ここが侵されると、適切な計画立案や判断ができなくなり、実行機能障害が起こります。

これまで難なくできた仕事や家事でミスを連発するといった症状は、実行機能障害によるものです。これらの症状は、アルツハイマー型認知症(ATD)の初期をはじめ、脳血管性認知症(VaD)や前頭側頭型認知症(FTD、ここではピック病と同義)でも早期からみられます。

生活能力を評価する「IADL尺度」

実行機能障害は、生活能力の低下を招きます。それをチェックする指標として利用されているのが「IADL(アイエーディーエル)尺度」です。IADLは「Instrumental Activities of Daily Living」の略で、「手段的日常生活活動尺度」ともいいます。

IADL尺度は、8つの項目で構成され、単純に動作が行えるかだけでなく、判断や意思決定が可能かどうかもチェック内容に含まれています。要介護度の判断にも有用で、得点が低いほど自立した生活が難しく、支援が必要とみなされます。

【IADL尺度のチェック項目】

A.電話を使用する能力
1. 自分から電話をかける(電話帳を調べたり、ダイアル番号を回すなど)
2. 2、3のよく知っている番号にかける
3. 電話に出るが自分からかけることはない
4. 全く電話を使用しない

B.買い物
1. 全ての買い物は自分で行う
2. 少額の買い物は自分で行える
3. 買い物に行くときはいつも付き添いが必要
4. 全く買い物ができない

C.食事の準備
1. 適切な食事を自分で計画し準備し給仕する
2. 材料が供与されれば適切な食事を準備する
3. 準備された食事を温めて給仕する、あるいは食事を準備するが適切な食事内容を維持しない
4. 食事の準備と給仕をしてもらう必要がある

D.家事
1. 家事を一人でこなす、あるいはときに手助けを要する(例:重労働など)
2. 皿洗いやベッドの支度などの日常的仕事はできる
3. 簡単な日常的仕事はできるが、妥当な清潔さの基準を保てない
4. 全ての家事に手助けを必要とする
5. 全ての家事にかかわらない

E.洗濯
1. 自分の洗濯は完全に行う
2. 靴下のすすぎなど簡単な洗濯をする
3. 全て他人にしてもらわなければいけない

F.移送の形式
1. 自分で公共機関を利用して旅行したり自家用車を運転する
2. タクシーを利用して旅行するが、その他の公的輸送機関は利用しない
3. 付き添いがいたり皆と一緒なら公的輸送機関で旅行する
4. 付き添いか皆と一緒で、タクシーか自家用車に限り旅行する
5. 全く旅行しない

G.自分の服薬管理
1. 正しいときに正しい量の薬を飲むことに責任がもてる
2. あらかじめ薬が分けて準備されていれば飲むことができる
3. 自分の薬を管理できない

H.財産取り扱い能力
1. 経済的問題を自分で管理して(予算、小切手書き、掛金支払い、銀行へ行く)一連の収入を得て、維持する
2. 日々の小銭は管理するが、預金や大金などでは手助けを必要とする
3. 金銭の取り扱いができない

「Assessment of older people : self-maintaining and instrumental activities of daily living」Lawton,M.P & Brody,E.M. 1969より作成

前頭葉・前頭連合野の障害で起こるその他の症状

前頭葉や前頭連合野の障害が引き起こす中核症状は、ほかにもあります。

いつも購入している商品が売り切れのとき、別のもので代替するという判断ができないなど、急な変更に柔軟に対応できなくなる「判断力障害」も、よくみられる症状のひとつです。その背景には、前頭連合野の障害に加え、中核症状である「記憶障害」や「実行機能障害」の影響があります。記憶があいまいなうえ、情報処理能力も低下しているため、総合的な判断が困難になります。

さらに、同じく中核症状のひとつである「性格の変化」にも、前頭葉の障害が関与しています。特に、前頭側頭型認知症(FTD:ここではピック病と同義)では、穏やかだった人が怒りっぽくなる、子どものようになるなど、性格の変化が早期から現れます。アルツハイマー型認知症(ATD)とレビー小体型認知症(DLB)でも、末期には人格変化がみられるようになります。

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