中核症状を知る 失認・失行・失語について

投稿日:2023.06.08

脳の一部を損傷したことが原因で、日常生活または社会生活に制約がある状態を「高次脳機能障害」といいます。「失認・失行・失語」は、高次脳機能障害の代表的な症状で、脳卒中などの病気や交通事故による損傷のほか、認知症で脳が変性した場合にも現れます。ここでは、認知症の中核症状という面から、「失認・失行・失語」の種類や症状について紹介します。

もくじ
認知・行動・言語機能が低下する、高次脳機能障害の代表的な症状
失認の主な種類と症状
失行の主な種類と症状
失語の主な種類と症状

認知・行動・言語機能が低下する、高次脳機能障害の代表的な症状

認知症により脳の関連部位が侵されると、その巣(そう)症状(※)として、「失認」や「失行」、「失語」といった、高次脳機能障害が出現します。高次脳機能障害が起こると、行為や行動、注意、言語、思考などが広範囲にわたって阻害されるため、自立した生活を送るのが困難になります。

※巣症状…脳の特定の部位が損傷することで現れる症状のこと。損傷した部位によって症状が異なり、失語、失読、失書、失算、失行、失認などが代表的

失認の主な種類と症状

「失認」は、視覚や聴覚、触覚といった感覚機能に異常がないにもかかわらず、対象を正しく認識できなくなる状態をいいます。障害される脳の部位によって、「視覚失認」や「相貌失認」、「地誌的失見当」などに分類されています。

認知症では視覚にかかわる症状が目立っており、「視覚失認」はアルツハイマー型認知症(ATD)で特に多く、レビー小体型認知症(DLB)や脳血管性認知症(VaD)でもみられます。後頭葉から側頭葉の、顔認知の関連領域が障害されると「相貌失認」が出現します。

【視覚失認】
視力や視野には障害がなく、対象をはっきり見ることができるにもかかわらず、それを正しく認識できない状態をいいます。差し出された物品が何かがわからない、形や大きさを識別できないなどの症状があります。

・物品の認知の障害
筆などの具体的な物を見ても、それが何かわからない

・形態の知覚の障害
物の形や大きさ、図に描かれたものが何かを認識できない

・視野、色の障害
視野の一部が認識できなかったり、色を正しく認識できなかったりする

【相貌失認】
人の顔を見ても、それが誰かを識別できない状態をいいます。顔認知の関連領域である「紡錘状回顔領域(ぼうすいじょうかいかおりょういき:FFA)」、「後頭葉顔領域(こうとうようかおりょういき:OFA)」、「上側頭回後部(じょうそくとうかいこうぶ:pSTS)」などが侵されることが原因で起こります。視覚性の認知障害のため、相手の声を聞けば、誰なのかがわかります。

【地誌的失見当】
見当識障害の症状のひとつ「地誌的見当識の障害」と同じもので、「街並失認」や「道順障害」が起こり、今どこにいるのかわからなくなります。迷子の原因になります。

失行の主な種類と症状

「失行」は、手足の麻痺などがないにもかかわらず、簡単な日常動作ができなくなる障害をいいます。脳のどの部位が侵されるかで、現れる症状が異なります。

アルツハイマー型認知症(ATD)では、頭頂葉が広く侵されるため、「着衣失行」や「構成失行」が、特に多くみられます。また、縁上回(えんじょうかい)や下前頭回(かぜんとうかい)から中心前回(ちゅうしんぜんかい)が萎縮すると、「観念性失行」や「観念運動性失行」が現れます。

【着衣失行】
右頭頂葉の障害で起こると考えられています。衣服の着脱ができなくなります。

【構成失行】
簡単な図形の模写や積み木を積むといった構成課題ができなくなります。

【肢節(しせつ)運動失行】
指先での細かい動作ができなくなります。

【観念性失行(道具の使用の障害)】
主に縁上回や下前頭回から中心前回が萎縮することで生じる障害です。使い慣れた道具の使用法や、手順がわからなくなります。

【観念運動性失行(パントマイムの失行)】
主に縁上回や下前頭回から中心前回が萎縮することで生じる障害です。「歯を磨いて」「指でキツネの形をつくって」といった口頭での指示に対して、そのとおりの行為ができなくなります。他の失行症状で阻害されない限り、その行為自体を行うことはできます。

失語の主な種類と症状

認知症の「失語」には、大きく分けて、発話の障害と理解の障害があります。他の失行と同様、障害される脳の部位によって分類することができます。

 【運動性失語】
ブローカー野が障害されると生じるため「ブローカー失語」ともいいます。語彙が少なくなり、意味のある言語を話せなくなります。脳血管性認知症(VaD)で多くみられます。

【超皮質性感覚性失語】
主に角回(かくかい)やブローカー野が障害されると生じます。他人の言葉・発言を繰り返す「反響言語」が特徴です。発話は流暢ですが、内容が伴わず乏しくなります。前頭側頭型認知症(FTD、ここではピック病と同義)で顕著にみられます。

【語義失語】
主に側頭葉前部が障害されると生じます。「利き手はどっち?」と聞くと「利き手って何?」と答えるなど、知っていたはずの言葉の意味を理解できなくなります。意味性認知症(SD)に多くみられます。

【健忘失語】
主に角回やブローカー野が障害されると生じます。単語や言葉が出てこない「喚語(かんご)障害」や「語想起(ごそうき)障害」があらわれます。その一方、発語や言語理解は良好です。アルツハイマー型認知症(ATD)に多くみられます。

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