前頭側頭型認知症(FTD)の診断基準および症状と経過

投稿日:2023.06.08

前頭側頭葉変性症(FTLD:frontotemporal lobar degeneration)の中でも特に多いのが、前頭側頭葉型認知症(FTD:frontotemporal dementia)です。社会性が損なわれ、どこでも好き勝手にふるまうことから、介護に最も難航するタイプの認知症だといえます。ここでは、前頭側頭葉型認知症(FTD)の大多数を占めるピック病の主な症状と経過を紹介します。

もくじ
40〜50歳代での発症が多く、ほとんどは孤発性
反社会的行動など、行動の変化が最大の特徴
前頭側頭型認知症(FTD)の臨床診断基
2. 支持的症状 (よくみられるが、疾患特異性の低い症状)
ピック病の症状と経過
初期の症状
中期の症状
末期の症状

40〜50歳代での発症が多く、ほとんどは孤発性

ピック病は40〜50歳代と、若い世代で発症することが多い認知症です。男女差ははっきりしていません。ごくまれに、17番染色体関連による遺伝性の発症もありますが、ほとんどは遺伝とは関係なく発症する、孤発性によるものです。

反社会的行動など、行動の変化が最大の特徴

ピック病では、前頭葉による脳のコントロールがきかなくなるため、人格変化が顕著に現れます。身だしなみに気を使わなくなる、性的に奔放になる、ウソをつく、万引きをするなど、性格がガラッと変わってしまうのが特徴です。

他人に対しても、横柄で無頓着になり、質問に対しても真面目に答えず、すぐに「わからない」などと答える「考え不精」がみられます。診察中でも鼻歌を歌ったり、妙にふざけたりし、ときには診察室から勝手に出ていってしまうこともあります(立ち去り行動)。これらの行動は「わが道を行く行動」といいます。

また、同じことを繰り返す「常同(じょうどう)行動」や、甘いものを大量に食べるといった「食行動の変化」も、よくみられます。無意識に目を大きく見開く「びっくり眼(まなこ)」も特徴的な症状です。

前頭側頭型認知症(FTD)の臨床診断基

前頭側頭型認知症(FTD、ここではピック病と同義)は、人格の変化が中核症状としてあり、行動異常や言語症状が現れます。臨床的診断にすべて必要とされる中核症状と、必須ではない支持的症状があります。

臨床プロフィール (主要な臨床症状の概略)

性格変化と社会的行動の乱れが主要な初発症状であり、経過中を通して前景となる。感覚、空間認知、行為、記憶は比較的保たれる。

 

1. 中核症状 (基本的な症状)

A.潜伏的発症と緩徐進行

B.早期からの社会における対人行為の悪化

C.早期から個人行動の統制障害

D.早期からの感情鈍麻(どんま)

E.早期からの洞察力喪失

 

2. 支持的症状 (よくみられるが、疾患特異性の低い症状)

A.行動異常
1)清潔保持と整容の悪化

2)精神的柔軟性・融通性の欠如

3)注意散漫、注意維持困難

4)口唇傾向(※1)と食物嗜好の変化

5)保持的・紋切り型行動

6)使用行動

※1 口唇傾向…側頭葉の障害により起こる症状で、手に取ったものをなんでも口に運ぼうとする ※2 economy of speech…発話の簡素化。言葉を発する回数が減り、一文一文が短くなる 「Frontotemporal lobar degeneration:a consensus on clinical diagnostic criteria.」Neary D, et al. 1998より引用/日本語訳は『アクチュアル 脳・神経疾患の臨床認知症 神経心理学的アプローチ』辻 省次総編集、河村 満専門編集、2012

2. 支持的症状 (よくみられるが、疾患特異性の低い症状)

A.行動異常

1)清潔保持と整容の悪化

2)精神的柔軟性・融通性の欠如

3)注意散漫、注意維持困難

4)口唇傾向(※1)と食物嗜好の変化

5)保持的・紋切り型行動

6)使用行動

※1 口唇傾向…側頭葉の障害により起こる症状で、手に取ったものをなんでも口に運ぼうとする ※2 economy of speech…発話の簡素化。言葉を発する回数が減り、一文一文が短くなる 「Frontotemporal lobar degeneration:a consensus on clinical diagnostic criteria.」Neary D, et al. 1998より引用/日本語訳は『アクチュアル 脳・神経疾患の臨床認知症 神経心理学的アプローチ』辻 省次総編集、河村 満専門編集、2012

B. 発話と言語

1)発話の変化

  a)自発性低下とeconomy of speech(※2)

  b)強迫的発話亢進

2)紋切り型会話内容

3)反響言語

4)保持

5)無言

 

C. 身体所見

1)原始反射

2)尿便失禁

3)無動、筋強剛、振戦

4)変動しやすく低い血圧

 

D. 検査所見

1)前頭葉機能が高度に障害されるが、顕著な健忘、失語、空間認知障害はない

2)脳波:臨床的に明らかな認知症があっても脳波は正常

3)脳画像(形態的/機能画像):前頭葉/側頭葉前部の異常

 

ピック病の症状と経過

ピック病の経過は、初期、中期、末期の3つに分けられます。

初期の症状

⚫︎脱抑制(だつよくせい)、反社会的行動

▷ 行為・注意の持続困難(落ち着きがなく、常にキョロキョロしている)

▷ 考え不精

▷ 立ち去り行動(診察室からいきなり立ち去ることも多い)

▷ 万引き、無銭飲食

▷ 病的浪費、賭博

▷ アルコール多飲

▷ 性的亢進

⚫︎常同(じょうどう)・強迫行動

▷ 常同行為(常に同じ場所に座る、歩く、毎日同じ料理ばかりつくるなど)

▷ 常同的周遊(周徊ともいう)

▷ 時刻表的生活

▷ 強迫的音読

▷ 滞続(たいぞく)言語(同じ語句の繰り返し)

⚫︎環境依存症候群

▷ 強制把握(手を握られると強く握り返すなど)

▷ 使用行為(人のものを勝手にとり、使う)

▷ 模倣行為(相手の動きを無意識にまねる)

▷ 鏡像動作(鏡合わせのように左右対称に手を動かす)

⚫︎共感性の喪失、易怒(いど)

▷ 他者の思考、感情を推察できない

▷ 同情できない

▷すぐ怒り出す(易怒)

⚫︎食行動異常

▷ 食の嗜好性変化(甘いものを好むようになる)

常同的食行動

初期から、人格の変化や反社会的な行動が強く現れます。これには、情動(本能的感情)をつかさどる扁桃体が、早い時期から高度に萎縮することも関与しています。アルツハイマー型認知症とは異なり、海馬は比較的保たれ、記憶障害は軽度である場合がほとんどです。

中期の症状

⚫︎ 滞続言語の悪化(言葉がより短く、内容も乏しくなる)

⚫︎反響言語(相手のオウム返しにする)

⚫︎錯語(さくご)

⚫︎健忘失語

⚫︎自発性低下

中期になると自発性が低下し、言語障害が現れてきます。中でも、同じ言葉を何度も繰り返す滞続言語が特徴的です。

末期の症状

⚫︎精神荒廃

⚫︎ 無言

⚫︎ 不潔

⚫︎拘縮(こうしゅく:関節のこわばりによる運動機能低下)

⚫︎るい痩(るいそう:食欲低下による体重減少)

末期では認知機能、身体機能ともに低下し、衰弱死に至ります。アルツハイマー型より進行が早く、経過年数は平均6年です。

なお、アルツハイマー型認知症(ATD)で、ピック病のような病理変化を伴う症例も報告されています。このケースでは、記憶障害より、落ち着きがない、怒りっぽい、嫉妬妄想などの人格の変化が目立ちます。

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