認知症いろいろ・「胃ろう」もいろいろ

投稿日:2025.05.28

「胃ろう」という言葉を耳にされたことがある方も多いかと思います。病気や加齢により、口から食事を摂ることが難しくなった方に対して、胃に直接栄養を送るための方法です。その是非については、医療・介護の現場でも議論が続いています。
しかし、私たちが本当に向き合うべきなのは、「その人らしく生きる」という視点ではないでしょうか。

もくじ
88歳のYさま
水ようかんが食べたい!
食べること

88歳のYさま

88歳のYさまは、認知症はあるものの、それ以外に大きな病気はなく、とても元気な方でした。ある日、感染症をきっかけに急激に体力を落とし、食事も摂れなくなり、入院されました。入院中に医師から胃ろうの提案があり、ご家族は「少しでも元気になってほしい」との思いから、胃ろうを選択されることになりました。

退院して施設に戻られた当初、Yさまは寝たきりでしたが、次第に体力を取り戻し、車椅子に乗れるようになりました。声も出るようになり、表情にも明るさが戻ってきました。

水ようかんが食べたい!

ある日、Yさまがこうおっしゃいました。

「水ようかんが食べたいのよ!お願い、食べさせて!」

私たちはご家族と主治医に相談のうえ、吸引機を用意して、ほんの一口から口に運びました。Yさまは嬉しそうにそれを味わい、ぺろりと1個を完食されました。

「おいしいね。ありがとう。」

その言葉と笑顔は、私たちの胸に深く残りました。
食べたいという気持ち。それは「生きたい」という意志の表れでもあります。

Yさまはその日を境に、少しずつ食事を再開されました。
最初は「好きなもの」から。足りない分は胃ろうで補い、お薬だけは胃ろうから投与する、というかたちでサポートしていきました。

ある日、胃ろうのチューブ交換のため病院に同行した際、医師から「チューブが腹部にめり込んでいるので、あまり食べさせないように」と言われました。
私たちは、ご家族と話し合い、「もう口から食べられるのなら」と、胃ろうのチューブを抜去する決断をしました。

食べること

食べること。それは単に栄養を摂る行為ではありません。
味を感じ、香りを楽しみ、思い出とつながる、人生の大切な営みです。

「口から食べる」という行為の中には、「人としての尊厳」や「生きる喜び」が詰まっています。

胃ろうは、時に命をつなぎ、生きるための希望となるものです。
一方で、それが「最期までその人らしく生きる」ことと一致しない場合もあります。
大切なのは、「何を優先するのか」を、本人やご家族とともに考えることだと、Yさまの経験を通じて強く感じました。

私たちは、「胃ろうをするかしないか」ではなく、「その方がどう生きたいのか」に寄り添うことを忘れてはならないと、改めて心に刻みました。

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