じいさんばあさんの愛し方

投稿日:2023.12.01

医学部卒業後に茨城県内の病院を転々と異動し診療する中で、徐々に‘認知症’の存在が気になりだした私。

もくじ
一般内科医にとっての認知症
三好春樹先生と生活リハビリ
よい介護 X よい医療

一般内科医にとっての認知症

おそらくほとんどの一般内科医にとって、認知症は‘わき役’的存在かもしれません。わき役というのは「本来自分が診ようとしている主役の疾患ではない」という意味です。

私が勤務していた一般病院でも、外来患者さんは高血圧や糖尿病などの生活習慣病で来院しており、入院患者さんの入院理由も脱水、誤嚥性肺炎や尿路感染などが多いのです。それでも…少なからず高齢患者さんで、認知症はおまけのようについてくるんです。

勝手についてきたのだから、見て見ぬふりでやり過ごそうとしますが、これがまぁ、わき役とは思えないほどに手ごわいこと手ごわいこと。肺炎で入院した方は、1日目こそぐったりしていますが、点滴で水分が入り潤ってくると、2日目からはゴソゴソ起き上がって点滴をひっこ抜いたり、夜中にベッドから降りようとして尻もちをついたりする。

「先生!昨日の夜は田中さんが一晩中ナースコールを押しっぱなしでした!なんか指示出して下さい!!」

病棟の看護師さんからこんな風に詰めよられることが日常茶飯事。認知症の治療なんて、医学部ではほとんど習っていないので、先輩の指示記録を見ながら見よう見真似で「不穏時の指示 セレネース1アンプル…」と書いて、さっさと解熱して退院してくれないかな~と願う。こんな風に、多くの内科医にとって認知症の高齢患者さんは‘標準的な治療のレールに乗れない厄介な存在’という位置づけなのかもしれません。

しかし外来で家族に話を聞くと、認知症はわき役どころか超主役級の存在であるらしい。この認知症の存在が、一緒に暮らす家族の生活の質を大きく左右しているという意味で。介護に振り回されてぐったりしているご家族を前に、自分がもっと認知症のことを学べば、ただ降圧剤の薬を処方するよりもお役に立てるのでは…と思うようになります。

三好春樹先生と生活リハビリ

実は私が認知症に関する書籍で初めて読んだ本は、三好春樹先生の「老人介護 じいさんばあさんの愛し方」という本でした。三好先生はPT(理学療法士)の資格をお持ちですが、先生が行うのは、専用のリハビリ室で器具を使いながら手足の筋肉を鍛えるような、狭義のリハビリではありません。日々あたりまえに繰り返される生活を適切にサポートすることで高齢者を元気にしようという生活リハビリを提唱しているのです。

この説明を読んでも、生活リハビリというのがどのようなものか、あまりイメージできないですよね。それもそのはず。専門的な指導者がおらず、専門の器具もなく、お年寄りがふつうの生活動作を行っているのが生活リハビリの現場なので、何も知識もない人が見たら「普通に生活しているだけ」にしか見えません。介護の専門性も感じられないでしょう。

三好先生の、ありのままの老いや病を受けいれ支えていこうという考え方に刺激を受けたものの、当時の私はそれ以上踏み込んで勉強することなく終わってしまいました。当時の三好先生は、本の中で医者や看護師を痛烈に批判しており、小心者の私は「この人は医療者が好きではないんだ」と怖気づいてしまったのです。

よい介護 X よい医療

そこから更に10年の歳月がたち、いま再び三好先生の本に戻って学び始めている自分がいます。コウノメソッドの考え方に基づき、副作用の害を最小限としながら改善を目指すという姿勢は今も変わっていません。一方で、目の前の方を本気でよくしようと思うほど、「治療がすべてではない」ことも実感するのです。私が診察室で患者さんと接する時間は、1ヶ月でせいぜい数分間。それ以外の莫大な時間を、家族や介護職の方が本人と接しています。認知症の方を取り囲む環境(介護)の質によって、ご本人の状態はこんなにも左右されるのか…そう実感するケースを多く経験したのです。

ある介護施設長は、かつて私にこう言いました。

「医者のこと、長いこと敵だと思っていたんです。」

医者がガイドラインに従って処方し増量する薬によって、認知症の方は興奮がどんどん強くなったり足の運びが悪くなっていく。家族や心ある介護職員は、いかにそういう薬害から認知症の方を守るかに苦心してきたのでしょう。第一線の介護現場で戦ってきた三好先生がなぜあれほどの熱量で医療者に憤っていたのか、以前よりもわかるようになりました。

※三好春樹先生

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