認知症になった家族の向き合い方

もしも、家族が認知症になってしまったら。まずは病気を理解し、その症状が生み出す行動や言動の変化を受け入れ、対応していく必要があります。ここでは、認知症の代表的な症状別の対応と対策をご紹介します。認知症の家族との向き合い方、新しい暮らし方の参考にしてください。
- もくじ
- 「物忘れ」による投げかけは、何度も受け止める
- 「意識低下」の症状には、積極的な交流を
- 「興奮と暴力」が見られたら、その場を離れる
- 「見当識障害」には、“今”を把握できるようサポート
- 「徘徊」と「夕暮れ症候群」には、できるだけ付き添う
「物忘れ」による投げかけは、何度も受け止める
認知症の代表的な中核症状が「記憶障害」。よく見受けられるのが、同じことを何度も繰り返して質問されるケースです。ご本人の記憶からは、こちらの回答はおろか、前に同じ質問をしたことも抜け落ちてしまうため、このような事態が起こります。
その症状をわかっていても、何度も同じことを訊かれれば、ついイラっとしてしまうもの。しかし、「前に答えたでしょう」という直球の正論は、残念ながら悪い印象を残すだけです。
「物忘れ」の症状には、「いつ、どこで、何をした」ということが少しでも把握しやすくなるよう、こまめにメモを残すように働きかけるのが有効な方法です。
また、食べたばかりの夕食を「まだ食べていない」と繰り返しせがまれる場合は、「食べたばかりでしょう」という正論を返すのではなく、一度「今、準備してますよ」と受け止めてみてください。そうして、うまく話題をそらしたり、普段の食事量を減らしたうえで、軽い食べ物を出して気持ちを落ち着かせるのもよいでしょう。
「意識低下」の症状には、積極的な交流を

自発性を失い無気力になり、家からあまり出ない、身だしなみに気を使わない、長年の趣味をやめてしまうといった「意欲低下」も、認知症の代表的な症状です。
悲壮感や絶望感を抱え、生きる意味を失う「うつ状態」や、何事にも関心が持てず、生きる意味を失い、無感情になる「アパシー」の症状が出たら、家族や周囲の人の積極的な働きかけが欠かせません。
このような症状に対しては、まずは、とにかく褒め上手になること。人は褒められると前向きな気持ちになりやすいものです。たとえば、身だしなみを整えてあげたうえで褒め、少し気分がよくなったところで、そのまま買い物や散歩に誘ってみると応じてくれるかもしれません。
また、家族に対してはつい“甘え”が出てしまいがちなので、家族以外と接する機会を増やすのも有効な手段です。それは、「自分がしっかりしなければ」と自然に思える小さな子どもでもよいですし、多少の緊張感を持てる間柄の人もよいでしょう。
「興奮と暴力」が見られたら、その場を離れる
介護が非常に難しいのが、「興奮と暴力」の症状で、前頭葉の障害により感情の抑制がきかなくなる前頭側頭型認知症(ピック病)の人に多く見られます。
多少興奮して、声を荒げている程度であれば、「うん、うん」となだめつつ、その言い分に耳を傾けてあげるのがいいでしょう。しかし、激しい怒りや暴力を振るわれた場合は話が別です。ケガにつながりそうな危険物を遠ざけ、その場を離れてください。あわてて、力づくで抑えこもうとすれば、火に油を注ぐ結果になり、さらに悪い印象を残すので絶対に避けましょう。
「興奮や暴力」という症状は、周囲の人はもちろん、強い怒りの中にいる本人にとっても辛いものです。まずは、ご家族の安全を確保し、状況を整理しましょう。そしてかかりつけ医、ケアマネ、訪問のスタッフの方達とどうすれば良いか早めに相談しましょう。ご家族だけで抱え込まないでください。
急な「興奮や暴力」という症状の中には、患者さんがせん妄をおこされていることもあります。新しく開始したお薬が合わなかった、便秘が続いた、睡眠薬が合わなかった、お薬を間違って飲んでしまった、熱があった、痛みが上手く伝えらない、などが引き金でせん妄を引き起こしていることもあります。その場合は、まず、原因を除くことが大切です。いつもと違うことがあればそれも報告してください。知らない間に頭部打撲したところが硬膜下血種となって増大してきたということがあるかもしれません。暴力の対象が決まった人かどうかも見極めて、しばらく対象でない人で介護を回すのもひとつの方法です。
医師と相談してお薬を使う場合には、副作用を理解して、患者さんにメリットがあるかどうかで使用の継続を決めましょう。効き過ぎると誤嚥や転倒等のリスクがでてきますので、医師やスタッフとと相談しましょう。
「見当識障害」には、“今”を把握できるようサポート
「記憶障害」と同様、アルツハイマー型認知症の中核症状として現れやすいのが、時間や空間、人を認識する力が低下する「見当識障害」です。はじめに出るのが、時間についての見当識障害で、季節と真逆の服装を選んだり、昔のことをまるで昨日のことのように話すなど、現在の時間に合わない言動が増えます。そのため、少しでも「今」が把握しやすくなるよう、こまめにヒントを与え続けてあげるのがよく、たとえば朝食時の日課として「今日は〇月〇日ですよ」と確認したり、「4月になって、すっかり春の陽気ですね」など、季節に関する情報を入れこむのもよいでしょう。
また、朝は必ずカーテンを開けて日光を部屋に取り込むなど、体内時計が狂わないよう工夫するのも大切なことです。
認知症が進行すると、自宅までの帰り道がわからなくなったり、親しい人が認識できなくなる症状も出てきます。世話をする家族は、徘徊行動に悩まされたり、世話をしている自分を認識してもらえない寂しさを感じたり、辛い想いをすることが増えるかもしれません。
しかし、そんな時は患者本人もまた、自分がいる場所も、近くにいる相手も認識できない、孤立無援の状況の中、大きな不安を感じているはずです。家族をはじめ、周囲の人たちが笑顔で根気強く、失った認識を補うサポートを続けてあげることが大切です。
「徘徊」と「夕暮れ症候群」には、できるだけ付き添う
大きなケガや事故にもつながりかねないのが「徘徊」や「夕暮れ症候群」です。夕暮れ症候群とは、夕暮れの時間帯になると落ち着きがなくなり、「もう帰らなくては」と家を出ようとしたり、興奮して大声をあげたり、不機嫌になり周囲に攻撃的になる症状を指します。
家族が外に出ようとする患者さんを止めたり、叱ったりしてしまうケースが多いのですが、強い抑制は強い反発を招きます。大変ではありますが「一緒に行きましょう」と、できるだけ外出に付き添ってあげるのがよく、希望通りに行動ができたことで患者さんの気持ちは自然と落ち着くはずです。
しかし、徘徊は昼間に限ったことではありません。真夜中に急に家を出てしまうこともあり、すべての行動に目を光らせ、付き添うわけにはいきません。そのため、ドアの内側に新しい鍵を追加し、目が届かない時間帯は施錠しておいたり、ドアが開くとブザーがなる人感センサーを取り入れたり、また所持品にGPSを忍ばせるなど、さまざまなツールに頼ることも、大切な家族の安全につながります。